仮想ボディと字面

書体について学ぶなら、その書体の構造を知らなければなりません。構造を知ることでカーニングやトラッキングの理解も深まります。
上のサンプルは上から「新ゴM」「中ゴシックBBB」「リュウミンM」を32Qのベタ組(字間を空けたり詰めたりしない)で組みました。(画像は拡大表示)
フォントには、仮想ボディと仮想ボディより少し内側に字面枠があります。

例えば、文字を組む際、フォントの大きさが32Qだとします。
32Qは8mmですので、32Qのフォントをベタ組に組む場合、8mmの正方形が隙間なく並ぶ様に文字が組まれます。
隙間なく並べても隣の文字と重なることはありません。
それは文字の外形は、仮想ボディの大きさではなく、一回り小さい字面(実ボディ)の大きさでつくられています。
サンプルの様に「新ゴM」は仮想ボディの枠ギリギリまで大きくつくられていますが、「中ゴシックBBB」や「リュウミンM」は比較的小さくつくられています。
このことをよく理解しないでカーニングやトラッキングをしても思う様にならないことも多いと思います。
「新ゴM」で仮名部分のトラッキングを、-100にすると隣の文字と重なってしまう場合もありますが、「中ゴシックBBB」や「リュウミンM」では、漢字を-100、仮名を-200にしても重ならないのはこのためです。
漢字の日本の「日」の横幅は「新ゴM」に比べて「中ゴシックBBB」や「リュウミンM」は極端に狭くつくられています。
なぜ、この様に大きさが違うのかはいろいろな説がありますが、以下は私の独断の解釈ですので参考程度に読み流してください。
「中ゴシックBBB」や「リュウミンM」などは大昔につくられた書体です。
大昔の書体は字面も小さく、仮名も促音も小さくし、読みやすさを重視してつくられました。
東京オリンピックが開催された頃から、英文の組版がなぜ美しいのだろうとグラフィックデザイナーが意識しはじめ、英文は大きさや字間が揃っているからきれいに見えると気づきました。
しかし日本語の書体は漢字やひらがな、カタカナ、英数字などが混在し、カナの促音は小さく、文字の大きさは高さも幅もバラバラです。
また、日本語のフォントの仮想ボディが正方形でつくられ、仮名や促音はその中央に配置されていますので、特に仮名は小さく作られている上に「り」や促音の幅も小さく字間が空いてしまいます。
ところが、英数字のフォントは文字の形によって横幅を変えるプロポーショナルな構造でつくられ組まれていますので美しいのです。

1972年、中村征宏さんがデザインした「ナール」と言う丸ゴシックが写研の「第1回石井賞創作タイプフェイスコンテスト」で一位に入賞し、その後発売された時は、なんときれいな書体だろうと思いました。骨格が従来の書体と違い、字面が大きく、漢字も仮名もふところが大きく、特に仮名が従来の仮名よりも大きくつくられ、漢字と並べても大きさの差が少なく、ベタ組でも字間の差が少ない分、きれいに見えました。
その後同じく中村さんがデザインした「ゴナ」と言う角ゴシックが発売され、いままでの日本語の組版に一石を投じました。
その後モリサワからは「新ゴ」が発売されました。
その頃に開発された書体は、詰めなくてもきれいに見える様に、字面(実ボディ)も大きく、仮名のふところも大きく漢字と仮名とその促音の大きさの差も少なくつくられました。
デザインコンセプトは読みやすさより組んだ時の美しさです。
最近つくられた「ヒラギノ」や「小塚」も字面(実ボディ)は大きくつくられています。
このことを理解し、カーニングやトラッキングを行うと良いでしょう。
0
- 関連記事
-
- 活字と写植とDTP
- 仮想ボディと字面
- 進藤洋子「新書道」の世界展
スポンサーサイト
2012-12-13 │ アート・デザイン │ コメント : 0 │ トラックバック : 0 │ Edit